父の試練


父にある検査を受けてもらうことになりまして、そのひとつに「テーブルの上にある物を、指をさしながら名前を言う」みたいなのがありまして、テーブルには、消しゴム、鍵、10円玉がありました。

父が「消しゴム」つって「キー」つって、なんで英語?ってちょっと笑いそうになったのですが、次に「コイン」と言ったので、なんかしらんけど英語なんだー!と納得しました。
この3つを覚えておいて、後できかれるわけです。「さっきテーブルにあったのはなーんだ」とかなんとか。
父が「消しゴム、コイン……キー」と、ほんのちょっぴり間をあけてこたえましたら、心理士の先生の人が「そう、鍵ですね」と。
5つくらいのコマモノを覚えるバージョンなんかもありまして、あとひとつが思い出せんって時に、心理士の人が「鍵の横にあった物です」ってスペシャルヒントをくれたりします。
その時も父は「キーの横ねぇ……」と思い出すためのつぶやきの中にも自分のカラーを出し、「オレは鍵をキーと呼ぶ男」という強い気持ちがビシビシ伝わってきました。
後日、医師の問診時にも同じようなテスト(テストかどうかしらんが)がありまして、その時は、消しゴム、時計、鍵を覚えるっつーことで、「消しゴム、時計……キー」と父が申しましたら、医師の人が「はい鍵ですねー」と。
そしてしばらくして「出題でーす」「さっき覚えたのなーんだ」です。
父は「消しゴム」つって「時計」つって「・・・カギ」と。
言った。とうとう言いました。体制に屈しましたよ。権力に迎合した。ヤツも日和ったか。いやオルグされたんだ。
まあ、空気よんだだけですね。