父のてんかん 5

てんかん」という言葉を見聞きすることが多かった日々がとりあえず終わった。たぶんいつかまたはじまる。とか思ってたら今朝みた新聞の一面に「てんかん」の文字があった。ひらがなよっつは、てんかんかちんちんかるんぺんのサインでぜんぶわたしへの合図。タンポンはカタカナ。


てんかん気味悪い」ということ。
わたしがてんかんとかかわるとき、なんだったか忘れたけど発火だか爆発だか点滅だか感電だか放電だか放出だかが、頭だか脳だかでおきてるということらしいけど、そんなんぜんぜんわからない。みてても。まったく。ぜんぜん。まぶたピリリリとか手ギューとか腕や脚ドゥーンとか反対側ふにゃんふにゃんとかガクガクとかガンガンガンとかクチから泡ジョブズズズとかで、静かな部屋でテーブルの上の携帯電話のバイブ鳴ってうぉってびっくりするような一瞬があって、あとはずっとその人みて時計みて記録するとかそんなんですごいみてすごい記憶してすごい記録して、電話。数字に電話して数字を言う。翌日、病院の ICU というところで父とあう。「目が覚めたらここにいた」。同じ時間同じ場所で同じできごとに出会ってたのに、父はまったくぜんっぜん記憶にないらしく、母とわたしはやたらめったら細かいことまで記憶やら記録やらしてて、すごい気味悪い。お父さんがなんだか大変そうなのに、観察ですって!悪趣味ねぇというような感じ。不気味だし変だし不思議。


植物人間とか記憶を消された人とか認知症とか薬物中毒とか、ドラマとドキュメンタリーと日常はなんかちがいますか。


父と記憶のこたえ合わせみたいなことをするのだけど、かなり早い段階から合わなくて、父が知らない父のことをわたしがすごく知ってるというのがなんか、なんだろう、ゴイがなく。親が子のことをベラベラ楽しげに調子のってはなすようなこと、お風呂で大便したとかポコチンいじりすぎて病気になったとかずっとお母さんのおっぱいさわって寝てたのよーとかいう気持ち悪いはなしみたいなこと。おまえイクとき鼻の穴ひらきすぎやとか、射精のとき前歯出すよねとか、セックスしたあと目半開きで寝てるよねとか言われてもこまるし、なんかもうそいつとヤる気なくすと思うけどそうでもないかもしれないけど、自分だけそれ知ってるのもそれを相手につたえるのもいやだなと思っています。まあ「デル」とか「イク」とか言われたらすごい顔見るけど。「デル」って言われたらなんかちょっと笑ける。


父はどんな気持ちだろうって考えるけどぜんぜんわからない。
医療の人々がスイっと「泣いてたんやってー?なにが悲しかったの?」とか「病院行かないっておこったんやって?」とか、父にスイっとスーイスイっとたずねたりして、先生死ねやと思ったこともたぶんあった。てんかんのことだけ医療の人だけじゃない。「夜中にひとりでどこ行ってたの?」「テレビと現実わからなくなったの?」すげーなおい!おまえらすげーな!グイグイくるな!
父は、わからん知らんと言ってるしおどろいている様子です。多数決でわたしたちの記憶が本当にあったことになって、父は意識がなかったとかボケてるからとかで、わかってないおぼえてないってことになるのは気味悪く、わからんと言ってる人に泣いた怒ったと新しい記憶をつけて、なかったことなのにあったことになって、ちょっともうどうでもいいけど、わたしはわたしの観察や記憶に自信がないから記録してるんだけど、まあもうどうでもいいです。発作のあいだどんなんなのかとか、父にキチンとはなせない。すまんかったな。迷惑かけたな。とか、マジうっさい。知りたいのならはなしますが?とかいばってるけど、わたしは。ほんとに本当のことがよくわからないし、わたし自身が気味悪いということでてんかんが気味悪いということではないということかもしれないけど、認知症とかもそうなのかもしれないけど、よくわからないけど、医療とか介護の人々も気味悪いし、でも、どうでもいいとなんどか書いたのでどうでもいい。父は元気にデイサービスに行った。てんかんのはなしはしばらくいいや。流行ってないし。


生きている人々のみなさんにおかれましては、できたらなるべくご自愛くださるとわたしの気が楽。