「気持ちはいたいほどわかります」と言った

日常でふらつくような感じがあり、くらしがまともでない。自宅から一番近い病院の相談窓口に、なに科にかかればよいか相談しにきたと告げた。すでにひとつき前から耳鼻咽喉科で診てもらって薬の服用もしているがと言ったあとつぎの句が出ない。「きょう診察券はお持ちですか」と紺のカーディガンを着た人に求められて応じる。改善されないと言いたかった。ドクターショッピングをはじめようとしている。原因は自分にある。
急死するのではないかという不安がある、1日4時間くらいしか動けない、薬がのみこみにくいなどなどはなしたら少しお待ちくださいねと言ってカーディガンの人は扉のあちらに入って少し。白いケーシーを着けた人と共に扉からこちらに入った。こちらと言ってもこちらとそちらの間には長いカウンターテーブルがあるのでそちらはあちら。ケーシーの人はイスにすわって、カーディガンはおなかの前あたりで指をくんでその背後に立っている。「めまいがあるんですね」とたずねられ、答えにはなっていないと思いながらめまいをおさえる薬を服用していますと応えた。いやあだったかあはあだったか声を出したあとケーシーは「気持ちはいたいほどわかります」と言った。


ケーシーは9月だったか10月だったかに突然、回転性のめまいが起こり今もそれはある。症状があって数日後の月曜日この病院の耳鼻咽喉科で診察をうけた。改善されないまま日々を過ごしている。今は別のところに通院している。

15分か25分かの後。「ここでわたしとこうしてはなしてみて今、どんな気持ちですか」とケーシーにたずねられ、一矢報いるということばがうかんで。よぎって。どこかに。頭に?脳裏に?そんなにつらい状況で働いている人がいるのに自分はこれぐらいで甘えていると思うとこたえた。ジッと音がきこえたかと思った。わたしから目線をはずし、うーんとうなるような声を出しテーブルにのせていた両腕を胸のまえで組み「そんなふうにとりますか」とケーシーは言った。まぶたは閉じていた。背中はイスの背もたれにつけていた。15分か25分かの間。カーディガンはずっと立っていた。


心療内科メンタルクリニックかをあたったらよいのではないか、どうしても気になるなら婦人科を受診してもかまわないけど消去法にしかならない、なんにしたってスッキリ改善するようなことはないと思いますよ、またこちらにはなしをしにくれば気分も変わるでしょうとのことだった。費用の請求はなかった。