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体重 998g


「おんなはハイに」

母親が女だと、女たちが汚水マスのふたをかこんではなしていた。
100歳くらいの母親が、男性からの看護・介護をときおり拒むのでこまるというはなしで、「いくつになっても女なのねえ」「灰になるまで女なのよ」と、ふだんはつかわない語尾で、まるまると肥えたからだをくねらせ、ほほにあてた手をときおりあおぐようにまねくように。
呼吸器のドクターはイケメンだと女たちは話題をかえ、独身かな?背は低いけどと盛り上がりはじめて、眼科のドクターはたいそうキモイとのこと。両腕を胸のまえでしっかり組んでずいぶんとスリムになってしまった脚の上でまるまると肥えたからだがぐねりぐねりと大きくゆれる。

嫌悪している。母親が女であるということに。嫌悪か恐怖かほかのなにかか。だれかが女であることに。

数十年まえ女たちはここで、どの家のむすめが女であるかをヒソヒソとはなしていた。
ひとりが顔を上げて「おかあさんのお手伝い?」と衣類を干してるわたしに声をかけて、12歳のときも32歳のときも「お手伝い?」。母が生きているかぎりずっと「おかあさんのお手伝い?」なのだと思う。たとえばだれかが102歳になっても。