父の用足し 2

被介護者と介護者の性別がちがうとき、どっちの性にフィットした感じのトイレに入るかまようことがあり、まあ実際は、入るときはたいがい急いでるからまよった記憶はうしなわれ、使用中とか使用後に、これでよいのかあれでよかったのかとくよくよする感じです。

そしてまあ実際は、わたし自身がトイレでパスとかスルーとかしないことがなんどもあり、男性用でも女性用でもそれはそうで、通報されたことはないけど人々のおどろきやたじろぎなどをくりかえしみて申し訳ないと思いつつ、ひとりでもだれとでもトイレはむずかしく。
男性用トイレにはなんだか妙にひらけた空間があって個室はひとつふたつかみっつかそれくらいで、女性用トイレは個室の連続で空間がせまく。わたしは男性用トイレがすきです。

父がときどき、便器までガマンできずにその妙にひらけた空間で紙コップに尿をする。はじめてそうしたのは病院の処置室で輸液つながってて、尿提出する部屋の小窓たたいてカップ2個わけてもらった。それから持ち歩くようになった。紙コップ。いちど使ったらすてます。


おもいだしたこと。
電車にのりこもうとしたときかのったときか、私立小学校の制服を着た人がたくさん。すでにのっていて上をむいててさわいでいて、なにごとかと思っただけと思うのだけどもしかしたら発声していたのかもしれず。児童のひとりがこちらをむいてなにやら言いはじめるやいなやみな、つぎつぎわあわあめいめいしゃべりはじめ、説明しまくっているようすだがもうまったく、声がきこえすぎて言葉はきこえず。耳がきこえないと手話をしてみせたら、ひとりふたりとゼスチャーをはじめ、またみながゼスチャーで説明しまくりはじめた。それをぼんやりみていたところ、児童らの頭上をハチが飛んでいるのに気がついて、じっとしていたほうが身のためかもしれないという旨を言葉で伝えると、まさにそれだと、ハチが電車にのっている!さされる!とのことでした。
しらんけどたぶん攻撃しなければ大丈夫っぽいと思うので、かまうな、さわぐなと助言し着席すると、わたしのとなりに児童が座り、そのとなりに児童がすわり、そのとなりにと続いてみなで、ハチが次の駅で降りたらいいねなどと言っていて、児童のなん人かは次の駅で降りるとのこと。
大きな駅について、ハチの下をくぐりぬけた児童のなん人かがホームにでてこちらにむかって手をふってバイバーイなどと言って。電車のとびらが閉まる瞬間、急にキミだけ「ねーねーあの人っておとこー?おんなー?」と声に出し、こちらを指さし横顔をみせた。動き出した電車の中、のこったわたしたちはハチをみています。ハチをみてるけどチラチラあなたをみていますけどハチをみています。チラチラみられていますけどハチをみています。
ハチをみていることにしていたし事実そうなっていたけど、やっぱりどうしても。気になるか気にならないか気になって気になる?とたずねると、ひとりがうなずく。わたしはおとこだとかおんなだとか、かくしごとはするけどウソはつかないことを申し添えながらつたえたところ、「やっぱり!」「すごい!」「しってた!」と返ってきた。「しってた!」はなんか新しいなと思った。
でもしってた。
わたしはサバやカタバミなどをみてもほとんどなにがどれだかわからないが、あれはクマンバチだし、ゆうべ父が食べていたのはサワラだ。となりに着席する人々は児童で、スカートを着けた者は女児で、問うてかくにんすることなど一生なく、いつもすでにしってる。
ハッとして、あのハチはオスかメスか?とたずねた。「わからん」、わたしも。「なんできいたん?」、しらんけどオスやったらささへんかも。「そうなん?」、しらん。「耳きこえてんの?」、ハチ?「ううん」。
終点の駅でみな降りてバイバイ。たぶんハチも。しらんけど。もうすぐ夏休みくらいの初夏のできごと。声かけ事案。